卒業生

生まれ育った神奈川を支える、縁の下の力持ちでありたい。

藤見 悠真 法学部 自治行政学科
職種:公務員
就職先:神奈川県庁

INDEX

01行政から環境問題に向き合いたい、その思いが公務員という道を拓いた

わが家のリビングにあるテレビでは、いつもニュースが流れていました。幼い頃からそれを父の隣で見ていた私は、自然と社会問題に関心を持つようになり、学校の得意科目は公民と歴史。大学でも政治や社会について幅広く学びたいと考え、他の大学では見かけない、行政に特化して学べる自治行政学科がある神奈川大学に進学を決めました。実は、入学当初は公務員になろうとは思っていなかったんです。2年次から「公務員養成プログラム」を受講し始めたときも、あくまで公務員は将来の選択肢のひとつでした。「公務員養成プログラム」とは、法学部が資格試験予備校と提携して開講している学内プログラムのこと。高いお金と移動時間をかけて外部のスクールに通わなくても、横浜キャンパスの中で公務員試験合格を目指せるため、周りでもたくさんの友人が受講していました。


当時の私が力を入れて取り組んでいたのは、公務員になるための勉強よりもゼミでの研究の方でした。社会問題の中でも特に環境分野に興味があった私の選んだテーマは「行政面から見た生物多様性の現状と課題」です。水田面積の減少により、数が少なくなってしまったタガメやカエル。その影響は、例えばカエルをエサにしている鳥類など生態系ピラミッドの上位にいる生物の絶滅や減少にも及んでいます。生物多様性をどのように守っていくべきか。自治体へヒアリングに行ったり、図書館で文献を集めたりしながら、環境行政への理解を深めるうちに、「環境問題を解決するために、私にできることは何だろう」と考えるようになりました。学んだことを生かせる道を模索した結果が、「本気で公務員を目指す」という決意だったんです。


ジェネラリストであることが求められる公務員。採用試験においても、文系だからといって社会科学や人文科学の知識だけでは合格できません。私は数字が苦手だったので、試験科目の一つである数的処理の対策には苦労しました。講義を受けても、最初のうちはちんぷんかんぷん。何度も繰り返し問題を解いて、講師の先生から詳しい解説を聞いて、やっと解き方のコツがつかめてくるという要領の悪さでした。だから、参考書に載っているたった数行の解説だけを頼りに独学で取り組むことは難しい状態。そうかといって、予備校に通う費用を捻出することも容易ではありませんでした。学部に、受講料無料で教材費のみで学ぶことのできる「公務員養成プログラム」がなかったとしたら、私はきっと公務員になるのをあきらめていたと思います。

 

その「公務員養成プログラム」も、3年次になると本格化。平日は通常授業の後、夕方から数時間の講義を週2回。夏休み中は、朝から晩までの講義が週3回です。まずは、筆記試験合格を目指して全力を尽くしました。その結果、神奈川県と特別区(東京23区)に合格。ところが、面接の日程が同日だったため、迷った末に「生まれ育った地元のために働きたい」と神奈川県を選び、面接に臨みました。面接対策をほとんどしてこなかったため、土壇場で就職課に駆け込み、何度も模擬面接をしてアドバイスをもらいながら苦手意識を克服しました。公務員は民間企業に比べて結果が出るのが遅く、「うまくいかなかったらどうしよう」と不合格の夢をみるくらい不安になった時期もありました。それだけに、合格通知を受け取った時には心底ホッとしましたね。

02何事もない平和な1日を支えられることにやりがいを感じて

環境問題の解決を志しながらも、県職員の業務は多岐にわたるため、希望どおりの仕事ができるとは限りません。4月の入庁式の日、私が配属されたのはかながわ県民センターの管理運営・経理部門。必要な物品の発注や、それに伴う検収作業、会議室やホールの利用料を徴収し処理する業務などにあたりました。数字が苦手なので不安はありましたが、だからこそ、こまめにメモを取って業務の優先順位を整理したり、資料はミスがないか見直してから提出する癖を付け、円滑に業務を進められるように努めました。周囲のフォローにも感謝しています。

 

コロナ禍では突発的な対応が発生することが多くありました。平常時であれば、かながわ県民センターは県内で活動している団体・サークルの集まりや地元商店街の会議で利用されたり、ホールや展示場でイベントが行われることもあります。休館時や利用制限がある場合のお問い合わせには、言葉を尽くして状況をご説明し、納得して頂けるよう利用者の方々の気持ちに寄り添うことを心掛けていました。大変な時期ではありましたが、時々の状況をすばやく把握し、柔軟に対応する力を身に付けることができたように思います。

 

入庁4年目を迎えて、現在の所属先であるくらし安全防災局へ異動。県内で災害が発生した際の被害情報の取りまとめ、事業者との防災協定の締結、大規模災害に備えた対応マニュアルの策定、訓練への参加、県が制作する動画の内容調整などが主な仕事です。防災に関する県の施設を視察するなど、出張も増え、行動範囲がぐんと広がりました。異動してみて、「公務員の仕事って、本当に部署によってまったく違うんだな」と実感しています。現在の部署は、災害が発生したらどこよりも先に対応するのが仕事。ローテーションで回ってくる当番班の日は、勤務時間外に災害が発生した時に率先して登庁することが定められています。異動して 2 日目の当番班の日に、豪雨に見舞われた際はとても慌てました。右も左もわからない状態でしたが、周りの職員と連携・協力して夜通し対応しました。結果として大きな被害もなく胸を撫で下ろしましたが、その時に肝に銘じたことがあります。それは、防災部門の担当者として「業務はできる限り早く遂行する」ということ。たとえ期限までに時間があったとしても、その作業を先延ばしにしていたら、いざ大きな災害が起こった時に人手不足になりかねません。やるべき物事を早く終わらせ、手が空いている状態を作っておけば、急に大きな災害が起きた時でもフレキシブルに動くことができる可能性は高まります。また、ひとりでできることには限界があるため、普段から周囲と連携しながら業務を進めることも意識しています。

 

防災部門は特にその傾向が強いですが、公務員は、業務が滞りなく進んでいる間は注目されることがほとんどありません。今日1日を、今月を、1年を何事もなく終えることができたという達成感を胸に秘めながら、“縁の下の力持ち”のひとりとして社会を支えていけることが私の誇りです。

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※内容はすべて取材当時のものです。