卒業生

ジャズとともに進化し続ける

Masumi Yamamoto 外国語学部英語英文学科卒業。
ロサンゼルスを拠点に、作曲家・ジャズピアニストとして活動。
全米ビルボードチャートで最高4位にチャートイン。
コロナ禍により一時帰国し、日本でも活動を開始。
2024年「TLQ plus」の日本初ツアーを実現。

場内が熱気に包まれた神奈川大学での凱旋ジャズライブ。演奏後、「学生たちのキラキラ輝く目に、刺激を受けました」と語るMasumiさんに、夢に向かって動き出したきっかけや、ジャズピアニストとして大切にしていることを聞きました。

INDEX

01考えすぎない、直感で動く

Masumiさんは、洋楽好きな両親の影響から、幼少期よりアメリカの音楽や英語が身近にある環境で育ちました。ジャズの巨匠、ジョン・コルトレーンのサックスに魅せられたのは7歳の頃だといいます。

4歳でピアノを始め、小学校時代は自分の好きな曲を弾ける喜びに満ちていました。しかし、中学生になると毎月のようにコンクールに出場する日々。数々のコンクールで入賞を果たしますが、周りの友達はライバルとなり、コンクールのための練習と演奏に葛藤を覚えるようになります。

「ピアノを嫌いになりたくない…」
自分自身と正直に向き合った結果、中学3年生でピアノをやめ、高校時代は音楽から離れることを選択しました。

「振り返ると、あの時の判断は間違っていなかったと思います。音楽以外の好きなことに目を向けて、 “英語を学びたい”という思いで神奈川大学外国語学部英語英文学科へ進学したからこそ、今の私があります」

故郷の新潟から横浜に出てきたばかりのMasumiさんは、何に対しても遠慮がちで、自分の意見を人前で話すことができなかったといいます。しかし、その殻を破るきっかけを与えてくれたのが一緒に学んだ仲間であり、新しい環境でした。

「大学時代に出会った帰国子女や留学生の友達からは、たくさんの刺激をもらいました。学内で異文化や多言語に触れ、自分自身を客観的に見られるようになると、“悩む“より“行動“あるのみという考え方に変わっていきました。そこから世界がどんどん広がっていったと思います」

横浜で過ごした大学の4年間は、Masumiさんにとって、「ぜいたくで貴重な時間」だったといいます。国内外に開かれた都市・横浜には、さまざまな人や音楽があふれていました。Masumiさんは、海外ミュージシャンの来日公演に足を運ぶうちに、“やはり私はアメリカの音楽が好き、私も音楽を自分で作りたい!”と思うようになります。

そして、大学2年生の春休みに、ニューヨークへ数週間、初めて一人旅をしたことが、将来を真剣に考えるきっかけになりました。

新潟から横浜、そしてアメリカへ。
Masumiさんのモットーは、「考えすぎずに直感で動く」こと。それができるようになったのは、夢のおかげだと語ります。

02今、この瞬間を大切に生きる

大学卒業後は、ロサンゼルスへ移住。音楽学校で1年間、無我夢中で作曲と英語を学び、卒業した後は、プロのミュージシャンになるために、シンガーソングライターとしてデモテープを制作し、レコード会社へ持ち込みます。

その時、Masumiさんの曲を気に入り、才能を見いだしてくれたのが、現在、所属するレコード会社のオーナーであり、伝説的サックス奏者でもあるトレヴァー・ローレンス氏でした。トレヴァー氏はMasumiさんにとって、師匠であり、信頼できるベストフレンドでもあります。

トレヴァー氏との出会いによって、Masumiさんは次なる夢を抱きます。ジャズ界のレジェンドたちが集う環境に身を置いて、彼らの創作活動を間近で見たり、演奏を聞いたりするうちに、「私が求めていた世界はこれだ!」と、シンガーソングライターからジャズ・ピアニストへの転身を決意しました。

彼らと一緒に舞台に立つことを目標に、朝から晩まで寝る間を惜しんでピアノの練習に没頭する日々。どんな音にも瞬時に反応できるように、さまざまなジャズのメロディ、リズム、ハーモニーを体に染み込ませていきました。

そして2015年、作曲家兼ピアニストとしてトレヴァー氏とともに、ジャズバンド「TLQ plus」を結成。さらに2018年に著名なベーシストと2人のドラム奏者を迎え、5人組のドリームチームが誕生します。

「ジャズの魅力はなんといっても即興演奏です」と語るMasumiさん。クラシックの楽譜のように最初から最後まで音符が書かれているわけではなく、その場のひらめきによって自由に演奏することができる、といいます。TLQ plusが奏でるホットジャズは、観客それぞれが感情のおもむくままに、踊ってもいいし、歌ってもいいし、声を出してもいい。その自由な空気が好きで、自分らしくいられる音楽だと感じているそうです。

演奏する人、観客のボルテージによって、演奏の仕方もテンポもメロディさえも変わることがあるため、Masumiさんは演奏中、全体を上から見渡すようなバード・アイ(鳥の目)を意識しています。

「演奏者同士がお互いに、空気を読みながら、さまざまな引き出しを使って、相手に合わせたり、時に自分がリードしたり、予想外の展開を仕掛けたり。大きな視点で語ると、ジャズは人生とよく似ています。ジャズは私に、瞬間、瞬間を大切にすること、今を生きる喜びを教えてくれます」

Masumiさんにとってジャズとは、自己を表現するための大切なツールであり、生き方そのもの。「まだまだジャズピアニストとしてできることがある」と、新たな夢を追い続けます。

03自分を信じる、好きになる

そうして「TLQ plus」の活動がアメリカで軌道に乗り始めた矢先、Masumiさんは、コロナ禍の影響で一時帰国を余儀なくされてしまいます。2020年のことでした。帰国直後はたった一人になってしまった気がして、音楽をやめることも頭によぎったといいます。

しかし、これまでの道のりを思うと、諦めることも簡単なことではないと気づきます。“もがくこと”は、音楽が好きだからこそ。その思いを胸に、再び動き出します。

米国ではマネージャーに任せていたことも、日本ではすべて一人でやるしかありません。生まれ故郷の長岡市や、新潟市のジャズクラブに自ら連絡をし、出演する機会を得ると、徐々に演奏仲間やファンが増えていきました。一歩一歩前進するなか、「いつか必ず日本でTLQ plusとして演奏したい」という思いが募っていきます。

それから4年の年月が経った2024年6月、ついに「TLQ plus」のメンバーが集結。新潟と東京で、初の日本ツアーが実現しました。

自らの手で仲間とともに夢を形にしたMasumiさんは、ジャズを通して、母校の後輩たちに夢と希望を届け、背中を押したいと考えます。そして実現したのが、神奈川大学の横浜キャンパスで、学生を対象にした凱旋ジャズライブでした。

「夢は、必ずしも自分がかなえたいタイミングで実現するものではありません。でも、諦めなければ必ず形になる日がやってきます」

だからこそ、“やってみたい”と思ったことは勇気を持って一歩を踏み出してほしい、とMasumiさんは実感を込めて語ります。

「人の評価を気にして、何もしないうちから諦めていたらもったいない。もし、チャレンジしてうまくいかなくても、それはタイミングが合わなかっただけ。チャンスはまたやってくると思えば、前を向くことができます」

Masumiさんによれば、夢を追い続けるために大事なことは、自分を信じること、自分を好きでいること。自分が自分の一番の応援団であってほしい、と後輩たちへエールを送ります。

さまざまな出会いや経験を重ね、ジャズとともに進化し続けるMasumiさん。これからもジャズの魅力を世界中の人へ伝えていきたいと語る笑顔は、明るく輝いていました。

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※内容はすべて取材当時のものです。