卒業生

片岡 貴之 人生を変えるきっかけになった大学での恩師の一言。世界を相手にビジネスを学んだJALUXでの15年間。独立後、輸入農産物を取り扱うことで見えてきた日本の農業課題。その時、その時の出会いが、自分を新たなフィールドへと羽ばたかせてくれます。

株式会社ベイ・コマース 代表取締役
(2000年卒業)

INDEX

01ー人生が輝き出した先生との出会い。世界を知った、JALUXでの15年間。

大学生時代の写真。写真左が片岡さん
大学生時代の写真。写真左が片岡さん

学生時代は坊主頭を金色に染め、ビーチサンダルで大学に通うような学生でした(笑)。部活に熱中するわけでもなく、卒業後の目標があるわけでもない。そんな自分の人生が一変したのが、大学2年生の頃。その日も学食の前で友人とキャッチボールをして遊んでいたんです。そこを通りかかったのが、後のゼミ担任になる田中則仁教授でした。「時間を無駄に過ごすくらいなら、真剣に勉強した方がいい」と一喝され、その言葉にハッとしたんです。私はすぐに田中先生の研究室を訪れました。経営学とは何か、先生の話に深く感銘を受けた私は「自分なりに経営学を突きつめてみよう」「やるからには他大学の人間に負けないほど打ち込もう」と、別人になったように勉強をし始めました。田中ゼミでは、「ビジネスパーソンにとってスーツは鎧である」という教えのもとゼミの日はスーツを着用します。身だしなみをはじめ、他者への気遣いや所作など、ゼミで学んだビジネスパーソンの心得は、全てが世の中に出るための授業でした。田中教授は単なる教育者ではなく、私にとって人生の先生です。

田中ゼミでのタイへの海外研修
田中ゼミでのタイへの海外研修

経営学に没頭していた私が主戦場と捉えていたのが就職活動でした。当時は就職氷河期で、競争相手は都内の有名大学の学生たち。しかし、彼らにも物おじすることなく試験に臨むことができました。多くの企業から内定をいただく中で、田中先生が多国籍企業研究をされていた影響もあり、日本航空系列の商社「JALUX」に就職しました。
JALUXは航空機や航空燃料の売買、農水産物の輸入など、幅広い事業を展開している商事会社です。そこで私は農産部の配属になりました。JALUXでは通常ジョブローテーションがあるのですが、私は退社するまでの15年間、一度も異動せず農産部ひとすじに携わらせていただきました。その間、世界中を飛び回りさまざまな人と出会い、ビジネスを生み出す仕組みを経験できたことは、かけがえのない財産です。順調な毎日ではありましたが、次第に物足りなさを感じるようになりました。その理由は、意思決定の重み、責任、スリル。もっと刺激的な環境に身を置き勝負したいという気持ちに突き動かされ、35歳の時に独立。「株式会社ベイ・コマース」を立ち上げました。

02海外の農業スタイルさえも変える、ダイナミックな挑戦。

日本から酵素をニュージーランドへ輸出し、 土づくりから減農薬減肥料を
日本から酵素をニュージーランドへ輸出し、 土づくりから減農薬減肥料を

ベイ・コマースはアジア、オセアニア、アメリカの各国から農産物を輸入し、販売する「輸入農産物の販売」と、国内でパプリカなどの野菜を生産販売する「国内農産物の開発」の2つを主な事業としています。
私が起業した理由に「オーダーメイド型の産地開発」の実現がありました。取引先に農産物をECサイトで販売する会社があるのですが、フィリピン産のバナナに黒い斑点ができやすく、国内の消費者にはあまり好まれない。調べてみると、タイに黒い斑点のできづらい品種があることがわかりました。そこでタイ政府と協力して現地で生産者を募り、この品種の生産拡大に成功。これはJICAの支援事業の一環なのですが、タイで新たな雇用を創出することはのSDGsの観点から「貧困をなくす」ゴールへの貢献も見込めます。日本のニーズとタイの品種がうまくマッチした例であり、私たちの使命は、さまざまな形で消費者と生産者をつなぐことにあります。

 

また、お客さまのニーズに応えるためには、時にスピード感のある意思決定や投資も必要です。ベイ・コマースでは、ニュージーランドでかぼちゃの生産を行っていますが、現地を視察していた当時、日本では禁止されている除草剤を使っていて、とても驚いた記憶があります。ニュージーランドの生産者たちは、広大な土地で効率化を図るためには農薬を使うしかないと言います。しかし日本では土に消化酵素をまいて活性化させることで、農薬を使用しない農業をすることが主流でした。そこで日本から農業資材を送り込み、土づくりからかぼちゃの生産をスタート。最初は半信半疑だった生産者たちも、3年、4年と継続するなかで成果を目の当たりにし、それを見た他の生産者からも「自分の農場にも日本流を取り入れたい」という声が起こっています。数千万円の投資は必要でしたが、リターンはもちろん、ニュージーランドの農業に一石を投じることができたのも、大きな決断を迅速にできた結果だと感じます。

03自らのビジネスフィールドを育て、デザインしていく。

輸入農産物を取り扱うことで日本の農業の課題も見えてきました。それは「規模の生産性」と「生産と販売の両立」です。国内で流通しているパプリカの多くは輸入品ですが、どうしてなのか。小規模で生産する国産品と比べ、海外のハウスは桁違いに大きく、コンピュータ制御で人件費も抑制。さらに海外では一つの企業が、生産、物流、販売までをワンストップで手掛け、非常に効率的な農業を実践しています。日本のものづくりは一流なのに、売ることが不得手なのがもったいない。このままでは日本の農業が立ち行かなくなるのでは、そんな危機感を抱いています。今、ベイ・コマースでは農業で利益を生み出すことを目標に、大分と宮崎でパプリカの生産に取り組んでいます。オランダのハウスを輸入し、少人数でも生産量が確保できる体制と、複数の販売先を確保し利益化できる仕組みを構築。日本の農業のあり方を私たち自身でも模索したいと考えています。今後、国産品や輸入品という農産物の区切りはなくなっていくように感じます。その中で地産地消ではなく、その土地の環境に合わせた「適地適作」を推進し、国内外問わず生産拠点をひろげ消費者と生産者をつなげたいと思います。

 

JALUX時代も、またベイ・コマース設立後も、神奈川大学で経営学を体系的に勉強できたことが役に立っていると感じますし、実践になるとなおさらすっと入ってくる感覚がありました。

 

神奈川大学で学ぶ、そして神奈川大学を目指す皆さん。学生時代「自分はこれをやった」と自負できるものを見つけ、極めてください。私はそれが経営学でした。大学で田中先生に出会い、海外に関心を持ち、海外の農業に触れたことが、私を全く新たな世界へと羽ばたかせてくれました。これからも私にしかできない新しいビジネスの形をデザインしていきたいです。

※内容はすべて取材当時のものです。