卒業生
謙虚に耳を傾けて、経験のすべてをアウトプットに生かす。
堀池 奏人
工学部 建築学科(現:建築学部 建築学科)
職種:建築士
就職先:株式会社JFE設計
INDEX
01インプットを得る姿勢を学んだバックパッカーの旅
高校時代、二世帯住宅で一緒に暮らしていた祖父が亡くなり、仏壇に手を合わせていたときふと考えました。こうして仏壇の前で祖父のことを思い返している限り、祖父の存在はなくならない。仏壇や墓石など、人は“かたちあるもの”を残すことで、身体の寿命以上の人生を生きられるのではないか。つまり、後世に自らの存在を残せるのではないかと。「もしかすると、建物をつくるというのはそういうことなのかも」。たとえば、建築家ガウディが没後百年近く経った今なお、サグラダ・ファミリアを通して人々の中に生き続けるように、人の意志は建物を通して存在し続ける。「建築ってすごい」。私の中に、建物をつくってみたいという思いが芽生えたのはその時でした。
昔から絵を描くのが得意で、当時「自分が建てたい建築のプレゼンをする」という課題を出されたAO入試で、神大の建築学科に入学。まず私が夢中になったのは、建築デザインの演習でした。先生に提示された条件下で、建物のデザイン制作をする授業です。アイデアを練っている間は、自宅のトイレの動線や旅先で見た建物など、経験のすべてがインプットになります。最後に先生が採点を行い、上位の学生が全員の前で作品をプレゼンする形式でした。ゼロからかたちをつくるのも楽しかったし、発表の機会を得た時は最高の気分。そうした課題制作を繰り返すうちに、いつもいい作品をつくる常連の発表者が目に留まるようになりました。センスがあって話も面白い、言わば学科の“天才”たちです。いい作品をつくれると、向こうから声をかけてきてくれることもある。彼らとのやりとりには、多くの発見がありました。
その後、私は1年休学をしてヨーロッパを巡るバックパッカーの旅に出ました。1年後に戻ってきても、また1学年下の“天才”たちと切磋琢磨できるだろうし、一石二鳥だなと考えたためです。その旅で特に印象に残っているのが、スペイン・バルセロナでの経験です。サグラダ・ファミリアで彫刻の仕事をされていている憧れの日本人彫刻家にお会いすることができ、人生におけるアドバイスをいただきました。それは「謙虚という言葉について考えてみなさい」という一言でした。旅の中で考え続けた末にたどり着いたのは、ただへりくだるという姿勢ではなく、「どんな相手の言葉にも耳を傾け、そこから何かを得ようとすること」という解釈でした。それまで私は、学科の“天才”や建築のスペシャリストである先生方の言葉だけが、自分を高める近道だと思っていました。でも、人はみな違う視点を持っている。聞く姿勢さえあれば、小さな子どもの何気ない一言だってアイデアのヒントになる。建築の現場では、お金を出す発注者やゼネコンの意見が強いですが、ベテランの職人さんの何気ない一言がすべてを解決してしまうこともある。謙虚とは、大切な声を聞き逃さないように心がけることではないかと。この気付きは、今の私をかたちづくる大きな指針となっています。
旅からキャンパスに戻り、授業や卒業研究とともに私を待っていたのは就職活動。学内で行われた合同企業説明会に参加した時、親しみやすくユーモラスな担当者の方が説明をするブースが目に留まりました。「面白そうな会社だな」。それが現在の勤務先との出会いでした。JFEスチールのグループ会社であるJFE設計は、製鉄プラントや公共事業を得意分野とする設計会社。調べてみると、巨大な製鉄プラントは何もかもが普通の建築と違います。海にせり出した5km四方の“島”がまるごと製鉄所になっていたり、タイヤが70個以上ついている輸送車が走っていたり。入社すれば、一般の人には見られない景色を見ることができ、ゼロからその景色をつくることもできる。それからはJFE設計を第一志望に就職活動を進め、内定を獲得。未知の領域に対するワクワクが決め手となり入社を決めました。
02後継のために育児休暇の実績をつくる
建築設計は、大きく「構造」「意匠」「設備」に分かれますが、私が所属する意匠設計は、強度や安全性を検証する「構造」以外の、あらゆることを担当する部門です。壁の断熱性や日射を検証するのも、床の素材を選ぶのも私たちの仕事。それらを踏まえて総合的に設計を行い、建築基準法に照らし合わせて問題がないかどうかを詰め、行政に申請をして、工事を行うチームに引き継ぎます。
入社後すぐに一級建築士免許を取得し、現在9年目。今の私にとってこの仕事は「きつい」85%、「楽しい」5%、「本当にきつい」10%というところ。新人時代は「楽しい」が85%だったのですが、プロジェクトリーダーを務めている今は他のメンバーに任せられないことも多いので、複数の案件が重なった時は本当にきついです。けれど、課題を解決したり、建物が出来上がった喜びという5%の「楽しい」のために、他のすべてを乗り越えられるような人にとっては最高の仕事だと思います。
現在は、半年間の育休中。2週間や1カ月は前例がありますが、男性社員の育児休業で6カ月を取得するのは私が社内第1号です。プロジェクトリーダーが半年抜けると影響が大きいとは思いますが、「まわりの人も困らないようにしないとね」と上長が部門の人数を増やし、全力でバックアップしてくれたので、安心して家庭のことに専念できています。就職活動の際、私は仕事の面白さだけでなく、年収や休日などの待遇、社員を尊重してくれる会社かどうかも調べた上で弊社を志望したのですが、育休の申し出をしてみて「あの時の判断は間違っていなかった」と答え合わせができた気持ちでした。
半年間の育休取得にはもうひとつ理由があります。建築の世界も人手不足で、プロジェクトリーダーとしては優秀な人材が本当に欲しい。私が男性社員として半年間育休を取得すれば、それは社の実績になります。建築を志す学生が他社との間で迷った時、弊社を選ぶ後押しになるかもしれません。
とはいえ、今は悪戦苦闘の毎日です。妊娠・出産から育児までいろいろ調べてみたけれど、生まれてきたら勉強したことと現実はまったく違う。でもその大変さが「かわいい!」にひっくり返る瞬間もあって、日々幸せを味わっています。
03「お金」と「時間」のビジョンを持って一歩を踏み出してほしい
学生時代の時間の使い方と異なる点として、就職をすると、「自分の時間」の多くを仕事に割り振ることになります。もちろん仕事をすることは、重要であり、とても楽しいことでもありますが、時間の使い方の舵取りは自分で行えていることが大切だと考えています。
時間の舵取りをする上で大切なのが「お金」とのバランスかと思います。
もし「しっかり稼ぐこと」を優先し舵をきるのであれば、若いうちに少し頑張ってでも収入の高い会社を選ぶのも一つの手。一方で、「自分の時間を大切にしたい」と考えるなら、働きやすさやライフスタイルに合った会社を選ぶことが大事です。どちらが正解というわけではなく、自分のビジョン次第で選び方が変わってきます。
ただ、何となく就職を決めてしまうと、「お金」と「時間」どちらの面でも納得できない会社に入ってしまうこともあります。そうなると、実績を積むのも転職するのも難しくなってしまいます。だからこそ、ビジョンを考えるときは「なにをしたいからその会社に行きたいのか」「どんな仲間と仕事をして成長したいか」もよく考えることが大切です。
新卒で入る会社では、多くのことを吸収し、多くのことを学ぶと思います。学び成長することで、想像を超えるプロジェクトに関わることもあると思います。失敗をしても前向きに進むための舵取りができるように、まずは今の自分を振り返り、将来どんな働き方をしたいのかを考えてみてください。自分の軸を持って、納得できる一歩を踏み出してくださいね。
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※内容はすべて取材当時のものです。