卒業生

礒野 寛之さん 小さい頃からの趣味、釣りに携わる仕事をしています。釣りも勉強も「仮説検証の繰り返し」が大切。試行錯誤を重ねることで、得られるものがきっとあるはず。これからもユーザーさんの笑顔のために、心躍るものづくりを追求していきます。

株式会社スミス 商品部企画開発課(2015年卒業)

INDEX

01釣りの楽しさ、人の温かさに触れた、(株)スミスとの出会い。

経営学部を卒業後、釣具専門店のキャスティングにて2年間ほど店舗販売などに携わった後、現在は、釣り具の輸入・製造メーカーの株式会社スミスに所属し、商品の企画開発を担当しています。例えばルアーと呼ばれる疑似餌を制作する場合、ボディの厚さを0.7mmにするのか0.75mmにするのか、ルアーの中のおもりを何グラムにするのか…?そんな繊細な世界で、ユーザーさんに喜んでもらえるようなものづくりに日々取り組んでいます。釣り具のものづくりに携わったり、雑誌や動画などのメディアに出演したり、好きなことを仕事にできた私の原点は、父親の後にくっついていった釣り場にあります。
子供の頃から父親と釣りに行くのが好きで、小さな頃は、それこそ遊び感覚で魚とりをしていました。小学5年生の頃、釣り場でルアーフィッシングをしている釣り人を見かけて、憧れを持つようになりました。でも、周りには教えてもらえる環境もなくて。そんな時、自宅近くに新しい釣り場ができたのですが、そこで、今、私が勤務するスミスがイベントを行っていました。当時はもちろん会社の名前も知らず、ただ夢中でルアーフィッシングを教えてもらいました。その時、教えてくれた方たちがすごく温かくて、嬉しかったんですよね。釣り自体も楽しかったですし、そこに関わる人たちが素敵だなと思ったことが、今に至る、本当に大きなきっかけになったと思います。
自然の中に溶け込んで時間を過ごせること。楽しみ方が単調ではないところ。そんな釣りの魅力にすっかり魅了され、神奈川を拠点に、遠くは大阪や宮城まで父親に連れていってもらいました。釣りはまた、さまざまな方と交流ができ、経験値を増やすこともできます。小・中・高校と釣りを続ける中で、メーカーの方と知り合う機会も増えて、釣りの知識と技術、そして人脈も広がっていきました。

02釣り活動とゼミ活動。現在につながる、それぞれの学び。

大学を選択する頃には、将来、釣りに関する仕事に就きたいと意識するようにもなっていました。そして自分に足りないものは何かを考え、多様な価値観に触れることができる、神奈川大学経営学部への進学を決めました。
高校時代から徐々に始まった釣り活動は、大学でさらに本格的になり、複数の釣具メーカーの方に声をかけていただき、釣り具開発のお手伝いや釣り教室のスタッフ、釣果を競うトーナメント大会への参加、メディア出演など活動の幅が増えていきました。ただ当時は、釣り具開発=ものづくりといっても、こちらから提案する機会は少なくて、もっとメーカーの方とキャッチボールができていたら、より良いものが生まれていたのかも知れません。そう考えると当時のやりとりが、現在、ものづくりに携わる上で、非常に良い経験になったと感じます。

今、私にとって欠かせない仕事道具のひとつが、3D CADソフトと3Dプリンターなのですが、3Dプリンターに初めて触れたのも大学時代の道用ゼミでした。ゼミでは、道用先生と我々学生が一緒になって、当時の湘南ひらつかキャンパスに日本初の大学内『ファブラボ』を作り上げました。この『ファブラボ』で、当時はまだ珍しかった3Dプリンターに触れることができたのです。この経験が現在の仕事に非常に役立っています。
ものづくりの現場で“試作”は重要な工程ですが、基本的には外注が主流で、長いと試作品ができるまで1ヶ月ほど要する場合もあります。そんな中、大学時代に『ファブラボ』で経験した3Dプリンターを職場に導入したことで、1ヶ月かかっていた作業が、わずか1日でできるようになりました。それだけではなく、釣り場にノートパソコンを持ち込み、その場で図面を作成して、職場で形にもできます。頭の中にあるひらめきを形にするのに、すごく魅力的なツールですし、思い描いたものを自分の手で形にできるようになり、表現の幅が大きく広がりました。3D CADソフトと3Dプリンターは今や仕事の大切な相棒ですが、道用ゼミにいたからこそ巡りあわせてくれものだと感じます。今でも時々みなとみらいキャンパスにできた、ファブラボに足を運んで刺激をもらっていますし、なにより卒業後もゼミの先生とご縁が続いているのはありがたいと思っています。

ゼミ活動は、みんなで同じことに取り組むのかと想像していましたが、私がいた代のゼミ生たちは、私を含めて各々がバラバラのことをする集まりでした(笑)。しかし、方向性の違う仲間たちが刺激にもなって、物事の発信の仕方や立ち居振る舞いなど、気づかされる機会も非常に多かったです。大学生活は、自分の興味や関心を広げるきっかけをたくさんくれただけではなく、「趣味」と「働くこと」をつなげることができた時間でもありました。

03大切なのは、自分から楽しさを見つけること。

フィッシングフィールドでの仕事風景
フィッシングフィールドでの仕事風景

勉強や釣り、そして仕事も、私は「仮説検証の繰り返し」が大切だと考えています。何となくでは、ちゃんとした答えは返ってきませんし、逆に努力や工夫をしながら取り組めば、そのぶん得るものがあります。経験は自分を成長させてくれますし、自分が携わったモノやコトでユーザーさんの喜ぶ顔を見ることができる。そういった部分に、仕事の大きなやりがいがあります。
小さな頃から釣りが好きで、釣り人たちが現場で喜ぶ姿を見続けてきて、改めて自分は「人が喜ぶ姿にやりがいを感じるんだ」と学生時代に再認識し、この道へ進みました。先日も、大型のイベントに出展した際、行列の中を子どもが会いに来てくれて、私の作ったルアーで「魚が釣れたよ!」と伝えにきてくれたんです(笑)。開発者冥利につきますし、やりがいを肌で感じた出来事でした。
釣りの仕事は、趣味の延長線上にあります。趣味だからこそ、深く没頭できることは大きな魅力のひとつです。反面、もっと広い視野も不可欠で、自分の会社がどのようなポジションにいるのか、どのようなユーザーに対して何を伝えたいのか、冷静に判断できないと迷走してしまう可能性もあります。そういう熱中と俯瞰のバランスも大切ですし、自分たちだけではなく業界全体を見渡すことも、将来にわたって釣りの楽しさを守るためには必要だと考えています。
情報の速度が早く、評価の高さに流されやすい時代ではありますが、自分なりのレーダーを張って楽しさを探してみませんか?釣りに限らず、自分に合いそうなツールを探すのもいいし、パーツを組み合わせて自作してもいい。誰かの“いいね”ではなく、“これ、ちょっと使ってみたいな”と、自分から楽しさを見つけることが、自分の好きな世界を広げることにもなりますし、市場を活性化させるはず。そんな皆さんの期待に応えられるように、私たちも「心が躍るようなものづくり」にこれからも挑戦し続けていきたいと思います。

※内容はすべて取材当時のものです。